愛しのオーガスタ

 

 

 

 

「あぁ、愛しいオーガスタ。

 

僕の瞳を見つめておくれ・・・・」

 

 

 

暫くしたら、演劇部の出し物は終わる。

 

学園際のメインイベントともいえる出し物は

 

演劇のほかのも沢山あったが、侑士が演劇に出たいと言ったから

 

俺は素直にオーガスタ役をやっている。

 

 

 

舞台は19世紀のフランス、季節は夏。

 

オーガスタは公爵家の一人娘だ。

 

しかし、オーガスタは街の花屋の一人息子に恋をする。

 

公爵家は跡取りが欲しい為に、伯爵家の次男と婚約を進める。

 

オーガスタは自分の恋を抑えられずに花屋へと毎日の様に通う。

 

そうしているうちに、花屋の青年もオーガスタに恋をした。

 

しかし、2人に残された時間はもう殆どなかった。

 

 

 

「オーガスタ、あの家を出ると言ってくれないか・・・・。

 

僕が幸せにしてみせるから」

 

 

 

貴族と平民の違いは大きかった。

 

オーガスタは平民の暮らしがどんな物なのかも知らなかった。

 

 

 

「・・・・私は・・・・・」

 

 

 

オーガスタは街の悲惨の姿を目にしていた所為か、

 

青年への恋がただの幻だったのではと思い始めていた。

 

温室で育った彼女にとって外は地獄以外の何物でもなかった。

 

 

 

「オーガスタ」

 

 

 

演技も終盤に向かっていた。

 

幸せだった2人から、不幸になっていく2人へと変わっていく。

 

オーガスタの婚約者の男がオーガスタの家へとやってきていた。

 

 

 

 

「・・・・オーガスタ嬢、外で悪さをしているらしいですね。

 

外の男など、貴方のように温室で育った女性には向きませんよ」

 

 

 

 

オーガスタにもそれは分かっていた。

 

ただ、俺はオーガスタになりきれていなかったのかも知れない。

 

花屋の青年を演じる侑士とオーガスタの俺、婚約者の日吉。

 

テニス部の演劇が、こんなにも辛いものとは思わなかった。

 

 

 

 

「・・・・俺は」

 

 

 

『向日先輩、俺って』

 

 

 

声に出してしまった事を後悔しつつ、俺の中では何かが渦巻いていた。

 

演劇が終わった後、侑士は俺に話し掛けてきた。

 

いつもとは違う雰囲気は何かを言いたそうだった。

 

 

 

 

「・・・・岳人、オーガスタの気分はどうやった?」

 

 

 

 

オーガスタは結局、婚約者と結婚し、青年は突然の閉店を迫られて

 

路上をさ迷う生活になってしまった。

 

全ては婚約者の男の仕業だった。

 

それを知ってもオーガスタは青年を助けなかった。

 

 

 

 

「俺はオーガスタみたいに諦めの良い人間じゃないって事は分かった。

 

それに俺は誰かの言いなりなんてね・・・・・・・」

 

 

 

 

俺は自分の来ていたドレスを脱ぎながら、外を見つめた。

 

 

 

 

「俺との運命もオーガスタと花屋くらい厳しい物かも知れへんで」

 

 

 

「俺は、いつでも侑士を選んでやるよ」

 

 

 

 

 

嬉しそうな表情の侑士を置いて、俺は外の出店を回ろうと

 

急いで着替えを済ませた。

 

 

 

 

「愛しのオーガスタ」