BOYS NEXT DOOR
DOOR.1 春、訪れた日
窓を開ける、なんてことない日常の1コマ。
誰もがしていることだから俺もする、そんな日常。
お隣には昨日引っ越してきた家族が住んでいる。
何でも同じ学校の奴がいるらしい。
氷帝学園に編入してくる奴だから頭は良いんだろう。
「岳人〜!
朝ごはんよ、早く食べなさい。」
「わかった、直ぐ行く。」
食卓はいつも賑やかだ。
俺の家は3人兄弟でしかも弟と妹がいる。
学校に遅刻しない様に皆で一緒に食べる。
「お隣のオシタリさん、今日から学校ですって。
岳人、一緒に行ってあげなさい。」
「・・・なんで?」
「関西から引越して来たばっかりで不安かもしれないでしょ?」
俺は目の前にあった目玉焼きの黄身を箸で潰しながら聞いていた。
母さんが俺にそういう事を言うのは珍しいことではない。
昔から母さんは人に親切にと俺たちに言っていたからだ。
「分かった。
まだ出掛けるまで時間があるし、俺部屋に戻って一休みしてくるわ。
今日、朝練ないの忘れてた。」
そうだ、今日は珍しく朝練はないんだった。
昨日、跡部がそう言っていた。
『明日は監督も俺も色々と用がある、朝練は中止だ。』
跡部の声が頭の中でリピートしてる。
クソ、後1時間は寝ていられたのに・・・。
俺は開けっ放しだった窓を見詰めた。
出窓に飾ったテニス部が関東大会優勝の時の写真が傾いていた。
「なんだよ、風で押されたのか?」
カーテンを括って外を見詰めると丁度、隣の家の奴と目があった。
忍足という昨日引っ越してきた奴だった。
「お〜、アンタがお隣の・・・。」
関西特有の訛りは俺の耳には斬新に聞えた。
「岳人だ、向日岳人・・・。」
「俺は忍足侑士。
昨日、引っ越してきたんや。
それなのに今日から学校やで、少しぐらい休みくれてもいいと思わへん?」
いきなり愚痴を聞かされたけど、悪い奴ではないと思った。
「カーテンすら付いてないんやで。
これじゃあ覗かれ放題やん?」
確かに忍足の家の窓にはカーテンは付けられていなかった。
そして中には大量のダンボール箱が隅に並べられていた。
「昨日、必死に教科書とラケット探したんやけど、見つかれへんかったんや。
今日から部活にも顔出さなアカンのにラケットないってどないやねん。
どんな転入部員や?」
1人で喋っている忍足に俺は喋る機会を失っていた。
「・・・って聞いてんの・・・?」
「あぁ、ラケットなら俺のを貸してやる。
それにそれぐらい転入生なら部長も見逃してくれると思うぜ。
あの人は誰かと違って優しいからな。」
忍足は俺の顔を見て笑った。
「よかったわ。
隣に同じ学校の奴がいて。」
「そうか・・・。」
すると忍足の部屋から携帯の音がした。
「おっと、部長さんから呼び出しか?
それじゃあな、また後で・・・。」
アイツは多分、朝練を潰した部長と跡部に顔合わせに行くのだろう。
「またな、岳人くん。」
うれしそうに忍足は俺に手を振った。
カーテンの無い窓越しに。
「そう言えばアイツ、3年か?
先輩なら敬語で話さないとな。」
俺は窓を閉めてから部屋を出た。