BOYS NEXT DOOR
DOOR.2 西の天才、東の王者
「おい、岳人。
あの関西の男は隣の家らしいな。」
跡部が珍しく話し掛けてきた。
何時もなら俺に問うことなんてないんだけど。
「そうだけど、もう会ったのか?」
「会ってねえな。
アイツが来てる間、俺は生徒会長会議でいなかったからな。」
「で、忍足さんのことがどうしたんだ?」
何時も通りに鼻で笑う跡部に問いただした。
「アイツは西の天才だ。
2年では敵なしって言われていた。
去年、補欠とはいえ全国にいったんだよ。
1年で行ったのは立海を除けば、俺と手塚だけだと思ったんだが。」
「ていうか、2年なのか・・・。」
敬語を使って損したぜ、と思いながら俺の声なんて
聞いていない跡部を見た。
「これから言うことを良く聞け。
今年は樺地に鳳、日吉っていう1年が入った。
結構、いい選手になりそうな奴らだ。
樺地は俺が知ってるだけでも相当できるからな。
それにあの西の天才、監督はどんな手を使って忍足をウチに入れたのか・・・。」
跡部の変な妄想に少し疲れた。
アイツの考えていることがお見通しだったからだ。
跡部は“監督が忍足の親の会社を買収、忍足の親を転勤、忍足を氷帝に編入”
って考えているんだろうが、現実は只の転勤らしい。
「跡部、お前の家みたいなことは監督はしないだろう。
それに忍足の家って医者だから、仕事で転勤しにきただけだろう?
大学病院の先生らしいし・・・。」
「・・・ウルサイ!」
跡部の少しためた声にしめしめと思い、続けた。
「うちは名門だから、学業優先って事で親が決めたって。
朝、おちの母親が言ってたぜ。
将来は忍足も医者かな?」
「医者の子供ね・・・。
まぁテニス部に入るからにはそれなりの成績でないと困る。
だいたい、慈郎やお前や宍戸だけで手がいっぱいなんだからな。」
跡部は成績も良いからか結構ムカツクこと言う。
完璧と言われればそうだけど、完璧ではないだろう。
性格とか、態度とか、言葉使いとか・・・。
そんなことを話していると話題の本人がやってきた。
ここは跡部と俺のクラスだ。
忍足は確か、宍戸のクラスだったはずだ。
「なぁ、テニス部の副部長さん。
今日から練習行かな、本当にアカンの?」
2時間目の休み時間だからか、忍足は辞書らしきものを持っていた。
忍足のクラスの次の授業は英語だから、きっと英和辞書だろう。
「ダメだ、入部届けを出した以上はな。」
「ほなら、1週間くらいしたら出したらよかったな。」
跡部は少しイライラしているように見える。
ここまで跡部に食って掛かる奴はいないだろう。
分かり易く喧嘩を売るのは宍戸だけど・・・。
「忍足、お前テニス部に入ったのか?」
話題を反らそうと思って話しかけた。
母さんからは聞いていたけど、直接聞いていないから聞いてみた。
「・・・あぁ、これでも俺、向こうでは無敵やったんやで?
去年は全国にも行ったしな・・・。」
「補欠が何言ってやがる!」
跡部の声で鼓膜が破れたかと思った。
「何や、俺が全国行ったのが気にくわへんのん?
まぁ一年で試合したんは立海の幸村、真田くらいやったしな。
後は個人戦で行った、手塚くらいか・・・。
まぁ氷帝の誰かも行ってたけどな・・・。」
跡部は自分の席にツカツカと歩いて行ってしまった。
「気の短い奴やな、跡部さまは・・・。」
「忍足、あんまり跡部を挑発すんなよ・・・。
アイツ、あれでも子供っぽい所とかあるから・・・。」
「何や、岳人。
アイツのこと好きなんか?」
クラスの大半が見ている所で忍足は俺に向かって言った。
誰も気付いていないみたいだったけど俺は焦った。
何故、この男はそんなことを言ったのか理解出来なかった。
「妬けるな・・・。
引っ越してきたらお隣さんと恋するんが俺の夢やったのに。
帝王みたいな男がおったなんてな。」
ニヤける忍足の背中を俺を押した。
「ちょっと、こっち来い!」
精一杯の力で押した。
とりあえずここを放れたかったからだ。
「何処いくん?
俺、そろそろ授業やねんけど・・・。」
そう言われたら放すしか無かった。
「そろそろか、じゃあ昼休みに図書室に来い。」
そう言い放つと忍足は笑って言った。
「あぁ、デート楽しみにしてるわ。」
俺は頭を抱えて自分の席に戻った。
俺の後ろの席にはイライラした跡部がノートに
ドイツ語で書いていた。
“お前は殺す、マジで殺す”
俺はドイツ語は分からなかったけどそんな気がした。
跡部の怒りは当にピークを超えていたから。