Carry on.

 

 

 

 

 

 

 

俺を運んでいるのは忍足侑士だ。

 

頭の切れる奴、外部入学してきた関西弁の変な奴。

 

監督に言われてダブルスを組む事になったけど

 

こいつのサーブが俺の後頭部に直撃して俺はこいつの背中に居る訳だ。

 

 

「・・・なぁ自分、前衛にいるのにいきなりジャンプされたら

 

俺だって上手くサーブ打てへんわ。

 

ただでさえ前に障害物のあるダブルスやで。

 

ちょっとはパートナーの事も考えたってな。」

 

 

こいつはテニスが上手い、転入してきて2ヶ月。

 

あっという間にレギュラー入りを果たした。

 

俺達はまだ2年で先輩達がいるうちはレギュラーに成れない奴らが

 

沢山いる。俺もその1人だ。

 

元々テニスが好きでこの部に入った訳ではない。

 

ただ名門テニス部と聞いて冷やかしで入っただけだ。

 

運動神経は人並み異常だと自分でも自負していたから。

 

 

「お前、忍足だっけ?

 

シングルスでもやってればいいのに何でダブルスなんかやってるんだ?」

 

 

「おっ、気が付いとったんか。

 

じゃあさっきの愚痴は聞かれてもうたんかな?」

 

 

頭がガンガンしていてこいつの背中からは降りられそうになかった。

 

 

「あぁ、はっきり聞えてたぜ。

 

俺は目と耳だけは人の何倍もいいからな。」

 

 

大きな声を出した所為か余計に頭が痛くなった。

 

それでも何か言おうと考えていた。

 

 

「向日、俺なぁ・・・。

 

こっちに来てよかったと思ってるんや。

 

向こうじゃ体験できないテニスやってる奴がいたからなぁ。」

 

 

確かに俺のパートナーをできる奴は氷帝には今はいない。

 

アクロバティックな動きに着いて来られる奴もいないけど。

 

 

「向日、確かに今日は後頭部にボールぶつけたけど、

 

練習すればそれなりに合わせられる様になるわ。」

 

 

「サーブぶつけといて何言ってるんだよ・・・。」

 

 

頭がガンガンと響いている。

 

昔、頭から落ちた時と似ている。

 

 

「俺のサーブはそんなに早くないで?

 

しかも練習試合やし、手加減してたんや・・・。

 

でもな、パートナーとしては最高やと思うで。

 

お前に着いて行けるのは俺だけや。」

 

 

こいつは俺のパートナーを希望した。

 

何故ってそんな事今さら聞かれても分からない。

 

 

 

 

 

「岳人、次なぁ右から来るから俺が取るわ。」

今では黄金ペアすら真っ青なダブルスだけどな。

 

「分かった侑士。」

 

 

試合が終わった。

 

3年になってからは氷帝のダブルス1は俺たちと決まっていた。

 

 

「侑士、今さらだけど、なんで俺とダブルス志願したんだ?」

 

 

「可愛いと思ったんや、始めてみた時。

 

女の子かと思ってな・・・。」

 

 

「それって・・・。」

 

 

「ほら、うちって女子も半パンでテニスするからな・・・・。」

 

 

「それって・・・・・。」

 

 

「知り合いたくってミクスドダブルスやらせてくれって

 

お願いしたんや、監督に。

 

そしたら女の子やないって言われてな・・・・。」

 

 

侑士の呆れた理由に俺は肩の力が抜けた。

 

 

「よかった、試合の後に聞いて。」

 

 

侑士は笑っていたけど、俺は何か腑に落ちなかった。

 

 

「俺のこと運んで、ちょっと力抜けちゃってね。」

 

 

手を伸ばすとあの時と同じ感触が蘇った。

 

やっぱり、俺たちって最高かも。