Escape.2 廃墟

 

 

侑士に連れられて来た街は見た事もない場所だった。

 

飛行機で来たのだから外国だと思う。

 

灰色をした街には人が見当たらない。

 

デパートやビルが並んでいるのに人がいないのだ。

 

まるで人だけが神隠しにあったみたいに。

 

 

この街まで来るのに空港から車で4時間は掛かった。

 

車の運転は侑士がしていた。

 

もちろん侑士はまだ14歳だから免許は持っていないし、

 

今まで一度も車の運転はしたことがないと言っていた。

 

だけど、侑士は嫌がる俺を助手席に乗せて此処までやってきた。

 

侑士が逃げ出したかった世界はこんな寂しい世界なのだろうか。

 

 

 

「侑士、ここってどこなんだ?」

 

 

 

「まぁ外国って奴やな。

 

旅行先にしては寂しいとこやけど、2人なら楽しいやろ?」

 

 

 

「でも・・・。

 

ここって誰も住んでないよな。

 

こんなに街が出来上がっているのに誰一人・・・。」

 

 

 

「ここは背徳の都やから、神様が滅ぼしてしもうたんかな?

 

空から炎が降らせて・・・。」

 

 

侑士はマンションの中に入ろうと自動ドアのガラスに

 

大きな石を投げつけた。

 

一瞬でドアは粉々になった。

 

ガラスが飛び散ると同時に砂煙が舞い上がった。

 

 

 

「何年も掃除してへんから埃っぽいのは仕方が無いな。

 

でも住める家があるだけマシやろ?」

 

 

 

うれしそうにしている侑士をよそ目に俺はここが何処なのかを

 

見極めようとしていた。

 

 

 

「岳人、部屋は2階でいいやろ?

 

あまり上の階にすると下まで食料取りに行くのが面倒やから。」

 

 

「あぁ、そうだな・・・。」

 

 

俺の様子を見ていた侑士は俺の変化に気付いたのか

 

そっと呟いた。

 

 

「岳人、そんなにここが嫌か?

 

ここに永遠に居るわけやないんやで。

 

もう少し、気楽にいこう・・・な?」

 

 

俺は頷いた。

 

侑士は何時も以上に優しかったし。

 

何よりも少し現実から逃げたかったから。

 

それに日本に帰れば俺たちは別れなければならい事実があったから。

 

 

「あぁ、そうだな。

 

キャンプみたいなものって思えばいいのかな?」

 

 

「そうやね、少し長いキャンプ。

 

室内やけどね。」

 

 

この街のことを調べると電気は微量だけど流れているようだ。

 

でも相変わらず人の気配はない。

 

街の中心にあるスーパーには缶詰や衣料品がそのまま置いていった。

 

 

「侑士、缶詰とかで生活するのか?

 

火が使えればバーベキューとかしてもいいだろ?

 

電気だって流れてるし・・・・。」

 

 

「岳人、いくら人が居ないからってバーベキューはアカンやろ。

 

街のど真ん中やで。

 

それに煙が立つと困るんや、いろいろとな。」

 

 

俺は缶詰を出来るだけ袋に詰め込んだ。

 

レトルトのカレーも持っていきたかったけど

 

火を使えない状態では諦めがついた。

 

いくらなんでも冷たいままのカレーはごめんだ。

 

他には乾電池と懐中電灯に遊べそうな物を探した。

 

 

「侑士、ちょっと別の店にも寄って良いか?

 

こんなに物があるんだから、携帯ゲームの1つや2つは

 

あると思うんだ。」

 

 

「退屈しのぎにゲームか・・・。

 

まぁいいで、この街じゃ退屈すぎて死んでまいそうやしな。

 

特に岳人は・・・・。」

 

 

車に荷物を詰め込んでいたら急に寒気がした。

 

誰かに見られている様な感覚が俺を支配していた。

 

 

「侑士、早く行こう。

 

何か君が悪い。」

 

 

「確かに人気のない街って不気味やね。

 

でも誰もいないと思うで、いるのは人間以外や。」

 

 

侑士が荷物を積め込み終わると言った。

 

 

「・・・ここは背徳の都、神様に滅ぼされた街なんやで。

 

神様に逆らった罰を受けてこの街の人は滅びたんや。

 

常識という神様に逆らってな・・・。」

 

 

車に乗り込んだ侑士と俺は少し遠いデパートへと向かった。