Escape.3 灰色

 

 

 

俺は岳人を連れてこの街にやってきた。

 

少しの逃亡のつもりだったけど、今では本気で

 

ここに住むことも考え始めていた。

 

この街であった出来事を俺は知っていたが

 

それを岳人に話す気にはならなかった。

 

天に唾を吐けば自分に降りかかるということを

 

俺は誰よりも知っていたからだ。

 

 

 

 

岳人はここに来てから缶詰ばかりだと怒っていたが

 

2週間も過ぎると何も言わなくなった。

 

岳人の好きなゲームはタダでできるし、

 

人のいない生活に慣れたのだろう。

 

 

 

元々、この街は小さなスラム街だった。

 

社会から見放された者たちが集まり、

 

一つ一つをこの街の人々が作り上げていった。

 

見放された者たちとは同性愛者。

 

男性同性愛者というべきだろうか。

 

街の外れは有刺鉄線で囲まれている、

 

外からの侵入者を防ぐためだろう。

 

忌々しい過去が垣間見える。

 

同性愛者だけの巣窟、

 

ここは間違いなく背徳の都なのだ。

 

 

 

ソドムとモゴラは街を滅ぼされて殺された。

 

絶対的なモノに滅ぼされてしまったのだ。

 

それは悪魔に誑かされたからではなく、

 

間違いなく自分の意思だったのだと思っている。

 

 

 

「侑士、旅行っていつまでここにいるつもりだ?

 

正直、飽きてきたぜ。

 

ゲームはほとんどやり尽くしたし。」

 

 

 

岳人は部屋のソファの上で俯いていた。

 

 

 

「ごめんな、岳人。

 

でも親が認めてくれるまでは帰れへん。

 

今、帰っても俺と岳人は離れ離れになってしまうんやで。」

 

 

 

暗い顔のままの岳人を見るのは辛かった。

 

もう1週間になるだろうか。

 

電気は多少流れているとはいっても

 

やはりこの生活は不便だし、ストレスも掛かっているのは

 

分かっているが、今は家には帰りたくなかった。

 

 

 

「ごめんな、岳人。

 

気分を変えて外に出てみよ?

 

ガソリンも補充したいし、街から出よ。」

 

 

 

岳人の手を引いて、俺はマンションの非常階段を下り始めた。

 

 

 

「ここで生活するのにも疲れたやろ?

 

1週間くらい、外で生活するのも良いかもしれへん。

 

モーテルに泊まって、ご飯でも食べて来ようやないか。」

 

 

 

「侑士・・・。」

 

 

 

ガソリンも入れたかったし、少し気になっていることがあった。

 

人が居ないはずのこの街に人の気配を感じているということだ。

 

薄々だが岳人も感付いているだろう。

 

俺も少し、この街を離れたかった。

 

 

「この街に来るまでの道って本当に何もないんだな。

 

もしも途中でガソリンがなくなったら、

 

徒歩で何時間、歩くはめになるんだ?」

 

 

 

「怖いこと言わんといてぇな。

 

只でさえ燃費が悪いんやから。」

 

 

 

車から見る風景は俺たちを拒んでいるように見えた。

 

あの街に住み始めたせいか、人と接することが怖くなっていた。

 

 

 

「空って青いんだな、改めて思った。」

 

 

「どうしたん?」

 

 

「あそこから見る空って灰色にしか見えなかったから。」

 

 

 

遠くに街が見え始めてきた。

 

 

そこには前のような普通の生活が待っている。