Escape.4 訪問者

 

 

 

 

 

 

この街に来たのは全てを捨てる気分になったからだ。

 

絶望の淵から這い上がることすら出来ない俺は

 

この街に逃げてきた。

 

しかし、この街には先客がいた。

 

俺と同じ年くらいの男が2人。

 

まるで俺とアイツみたいだったなと思った。

 

 

 

俺はこの街で育てられた。

 

ほんの3年ほどだけれど。

 

同性愛者の街として迫害を受けてきた街で

 

子供を育てていたのは若い同性愛者カップルだった。

 

 

 

この街にはレズビアンが珍しかった。

 

その女性はまだ幼い俺を抱えてこの街にやって来たのだ。

 

 

 

「すみません、このバリケードを開けてください。」

 

 

 

この街の外から声が聞えた。

 

こんな街に近付く人間は社会から見放された奴しかいない。

 

 

 

「どうしました?」

 

 

 

警備をしていた男が彼女に話しかけると彼女は言った。

 

「私は同性愛者だから、この街にいれて欲しい」と。

 

しかし、警備をしていた男は途惑った。

 

女性同性愛者を見るのが初めてだったからだ。

 

 

 

 

「それがダメなら、この子だけはここで育ててやってください。

 

私は社会から見放されてしまいました。

 

この子を育てていける経済力もありません。」

 

 

 

 

 

彼女の言葉は必死だった。

 

まるで自分を重罪人のように「子供を守って欲しい」と言ったのだ。

 

 

 

 

「この子は私が欲しいと男に頼んで子供を作ってもらった子。

 

私の大切な彼女はこの子の誕生を待たずに死んでしまった。

 

この子が幸せになれるように、あなたたちの世界で守って欲しい。」

 

 

 

 

俺は彼女に置き去りにされてから、あるカップルに育てられた。

 

それは若い少年と20より少し上くらいの年齢の青年のカップルに。

 

 

しかし、俺が3歳になる頃に、この街は襲撃に見舞われた。

 

まるで誰かが仕組んだかのような、相手に有利な戦いだった。

 

俺を育てていたカップルはどこかに拘束され、

 

俺はこの国の施設に預けられた。

 

 

その後、この街に人はいなくなった。

 

そして同性愛者は撲滅したと大々的に新聞の見出しを飾った。

 

俺を育てていたカップルは乳児誘拐犯として極刑、

 

同姓愛者というだけでも極刑は免れなかったらしいが

 

この2人には犯罪者としての汚名も着せられた。

 

 

4歳になった俺は国の補助で施設から、裕福な家へと養子にいった。

 

事件の被害者ということもあって金持ちからの同情を買ったのだろう。

 

俺はその環境でトップへと上り詰めることを7歳の春に決めた。

 

俺を育てていた男たちが極刑にされた事実を養子に来た家で

 

見つけてしまったからだ。

 

 

差別のせいで罪のない人が殺された。

 

間違ったことと決め付けられた者たちは神の怒りではなく、

 

人の怒りを受けてしまったのだ。

 

 

 

 

 

「俺は生まれた時から、ここで生活する運命だったんだ。」

 

俺は12歳で運命の出会いをした。

 

それが堕落への道とも分かってはいた。

 

しかし、あのロングヘアーの男から目を離せなかった。

「跡部、あいつらどっかに行っちまったのか?」

 

「あぁ、しかしすぐに戻ってくるだろう。

 

アイツらは俺たちと同じ運命なんだから・・・。」