Escape.7 信頼

 

 

 

焼きたてのハンバーグを思いっきり頬張る。

 

家で食べていた母親の味と良く似ていた。

 

久しぶりに食べた所為もあったけど、やっぱり家の味に似ていた。

 

 

 

「侑士、明日はどこに行こうか?

 

この街には何もないし、俺たちは休養に来たわけだけどさ。

 

何かやりたいんだ、どうする?」

 

 

 

「そうやな、明日は日用品をあの街に運搬するわ。

 

この街の人は、あの街には行ってくれないからな・・・。」

 

 

 

「じゃあ、そうしよう・・・。

 

俺、新しいベッドも欲しいし、

 

本当は冷蔵庫も欲しい、ちょっとの電気で動く奴でも良いから。」

 

 

 

ハンバーグを頬張る侑士に俺は目を向けた。

 

侑士は淡々と口にハンバーグを運んでいた。

 

 

 

「侑士、俺たち・・・どこに向かってるんだろう。

 

もう、何週間もあそこにいるけど、俺・・・・。」

 

 

 

俺は不安になっていた。

 

侑士と一緒に逃げ出した日本から、遠くなればなるほど

 

俺のことを家族は忘れてしまっているのではないかと。

 

 

 

「岳人は気にしてるん?

 

家族を置いて来たことや、人から離れて生活していること。」

 

 

 

「・・・少し、でも・・・」

 

 

 

曖昧な返事を返すと侑士はテレビのスイッチを入れた。

 

大分古い型の物だったが、ちゃんと写った。

 

 

 

「これ、見てみ。

 

親が捜索願、出したみたいやで。

 

しかも、アメリカに来たことはもう分かってるみたいや。

 

ここにいたら、捕まるのも時間の問題や。」

 

 

 

アメリカでも捜索を促すニュースが流されていた。

 

14歳の少年二人が、アメリカを旅行中に失踪したとなれば

 

日本大使館も全力を上げて捜索しざる終えなかった。

 

それが侑士にとっては最大の障害になっていた。

 

 

 

「俺たちの顔も公開されてる。

 

事件に巻き込まれたと思ってるみたいやけど、二人っきりで

 

こんな田舎街にいたんじゃ、良い訳もできへんな。

 

まぁレンタカーも偽名で借りたし、足が着くことはないと思うけどな。」

 

 

 

侑士が食べ終わった皿を洗い始めると、テレビは次のニュースへと変わった。

 

新に日本人の少年二人がアメリカで失踪と出ていた。

 

自分達のニュースは終わったはずだったが、こんな偶然のような事件が

 

あるのだろうかと、俺は思った。

 

失踪した少年の名前は跡部景吾、宍戸亮。

 

日本大使館の大使が多くのカメラに囲まれて記者会見をしている。

 

もちろん、俺たちのことも話していた。

 

大使は日本語で俺たちに呼びかけていた。

 

 

 

「この放送を見ていたら、すぐに大使館に電話を掛けなさい。

 

私たちは全力で君たちを探している。」

 

 

 

事件に巻き込まれていたら、どうするのかと俺は思った。

 

 

 

「もう、足は着いてしもうたのかも知れへんな・・・」

 

 

 

「侑士?

 

足は着かないって言ってただろう・・・。」

 

 

 

「もう、失踪した三日後からニュースで流れとんねん。

 

俺たちが事件に巻き込まれている可能性があるとしたら、ニュースなんか流さへん。

 

それに大使の言い様で分かるやろ、もう捕まるのも時間の問題。

 

だから、早くあの街に戻りたいんや。

 

あそこなら、誰も探しには来ないわ。」

 

 

 

侑士は大きなトランクから帽子を二つ取り出した。

 

それを深く被り、俺に一つを投げた。

 

 

 

「食べ終わったやろ?

 

ガソリンを調達しに行こうか?」

 

 

 

もう夜の八時に差し掛かろうとしている時刻だ。

 

ガソリンスタンドはやってはいるが、岳人は気が乗らなかった。

 

 

 

「もう、時間がないんや。

 

まさか、テレビで顔を流されるとは思わなかったわ。」

 

 

 

「侑士、食料品はもう買ってあるし、車に全部詰め込んで。

 

もう出発しようよ、ここにいたら捕まっちゃうんでしょ?」

 

 

 

レンタカーをガソリンスタンドまで飛ばすと、自らガソリンを入れる。

 

アメリカのガソリンスタンドは基本的にセルフだから、助かる。

 

ここから街までは約二時間ほどだ。

 

それまでに、誰にも道で会わないことを願って、車を走らせた。

 

 

 

 

「侑士、街が小さくなっていく・・・。

 

もうあそこには戻れないね。」

 

 

 

 

「そうだな、もう戻ることもない。

 

もしも食料を手に入れる時は、俺が一人で買いに行くわ。」

 

 

 

街に戻ってくると、少し安心した。

 

あんなに嫌っていたはずなのに、自分の街のような気がした。