My Smile with You

 

 

 

 

君の名前を呼ぶ時は何時も笑顔でって決めているんだ。

 

そんな事、君に言ったら笑われるかな?

 

 

 

「亜久津〜!!」

 

 

 

ほら君はまた不機嫌な顔をする。

 

何にイライラしてるかは知らないけど、俺は笑いかける。

 

 

 

「亜久津・・・。」

 

 

 

俺の声を無視して歩き続ける亜久津に俺は付いて行く。

 

桜が咲き始めて道は花びらで埋まってる。

 

 

 

「亜久津〜、今年で卒業だね。

 

今年こそ全国ベスト8に入りたいな〜。」

 

 

 

「ちっ!」

 

 

 

舌打ちをしたのは分かった。だって亜久津、本当はテニスしたいんだもんね。

 

誰にも言わないだろうけど俺には分かるんだ。

 

 

 

「ねぇ亜久津、ストリートテニスでもしない?

 

今頃なら人いないし。」

 

 

 

11時20分現在、普通の中学生なら今の時間帯は

 

誰も外をふら付いてはいないだろう。

 

 

 

「けっ。」

 

 

 

彼はつれない人かもね、それともかまって欲しいのかい?

 

でもね、そんな後ろ姿が凄く好きなんだ。

 

初めて見た時は俺より背も低くて、俺よりも声も高くて子供だったのにね。

 

 

 

 

こんなにも変わっちゃうなんて思わなかった。

 

こんなに俺を夢中にさせられる何て・・・・。

 

 

 

いつも亜久津がふら付いているテニスコートの近くは以外にも

 

学校の近くだった。

 

俺もよく通るのにストリートテニス場があるなんて気が付かなかった。

 

 

 

 

「亜久津って昔からそんなんだったの?」

 

 

 

 

亜久津は振り返らずに言う。

 

 

 

 

「そうだよ、昔からだ。」

 

 

 

「昔から徘徊してたんだ?」

 

 

 

 

亜久津はラケットをごそごそと取り出した。

 

 

 

 

「人が居ないっていいね、何かいつも人に揉まれてるから・・・。」

 

 

 

「じゃあ、始めるようぜ。」

 

 

 

「あっ手加減はしなくてもいい?」

 

 

 

 

亜久津はムッとした顔をしたけど、何も言わなかった。

 

ラケットを回す、俺はこれを外した事はない。

 

 

 

 

「フィッチ?」

 

 

 

「ん〜じゃあ、ラフで!」

 

 

 

 

裏でね、裏で・・・外れる気がしないな・・・。

 

でもね、負けちゃうかも知れないな。

 

だって俺、桃城くんにも神尾くんにも負けちゃったし・・・。

 

2年に負けてなんか、弱気になっちゃったんだよね。

 

 

 

 

カランカランと音が鳴った、少し信じられなかった。

 

 

 

「・・・・っ・・・。」

 

 

 

「あぁ、外しちゃった・・・。

 

実は最近、調子悪いんだ。」

 

 

 

亜久津には笑って見せたけど実は結構落ち込んでる。

 

大事な時に負けちゃうし、しかも格下の相手にね。

 

 

 

 

「この間の不動峰戦でお前負けてたな、それが原因か?」

 

 

 

亜久津にしては珍しく俺に質問してきた。

 

でもそんな質問よりも俺の勝敗をしってる事の方がうれしかった。

 

少しでも俺に興味持ってくれたんだなって・・・。

 

 

 

あぁ、それは違うかな。

 

亜久津はテニスがしたいんだね、きっと。

 

だから俺たちの勝敗知ってるんだ。

 

 

 

「そうかも知れない。

 

でも都大会で桃城くんに負けたのも原因かもね。

 

何か緊張の糸が切れたみたいになっちゃったって感じかな。」

 

 

 

 

精一杯に笑った、だってこれから試合するのに

 

辛い顔見せたら気が滅入るでしょ?

 

俺、亜久津に嫌われるの嫌だからさ・・・・。

 

 

 

 

亜久津は俺を見て言った。

 

 

 

 

「無理はすんな・・・。」

 

 

 

 

たったそれだけなにの、涙が出た。

 

亜久津もそんな俺を優しく抱きしめてくれた。

 

ネットを挟んでだけど・・・。

 

でも凄く幸せな気分だ、試合で勝った時よりもずっと。

 

その時から亜久津の前では笑顔でいようと決めたんだ。

 

だって少しの反応でも君は俺に気付いてくれるから。

 

だから笑顔で待ってるよ、君がテニス部に戻ってくる事を。