SHORTCAKE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘い生菓子が俺の目の前にある。

 

それは手を出してはいけないモノだ。

 

それに手を出したら取り返しが付かなくなる。

 

禁断の果実のようなその甘い生菓子は俺を狂わせる。

 

 

 

 

 

 

 

「宍戸・・・。」

 

 

 

 

 

 

それは目の前で俺を誘っているのだろうか。

 

甘い生菓子を目の前に置かれた子供のような気分だ。

 

 

 

 

 

「何だ、跡部か。

 

皆来るのが遅いから眠っちまった。」

 

 

 

 

 

「お前、午後の授業をサボっていたのか?」

 

 

 

 

 

目の前にある生菓子に自分でフォークの後を付けたいと

 

思う事は当然だろう。

 

食べてくださいと俺に話しかけてくるのは気のせいではない。

 

 

 

 

「なんでお前が知ってるんだ?クラス離れてるじゃねぇか。」

 

 

 

 

 

「お前が一番に来る時なんてのはサボってるか

 

掃除当番を誰かに押し付けた時くらいだからな。」

 

 

 

 

「そうなのか?って何でお前がそんな事分かるんだよ。」

 

 

 

 

「俺のインサイトにかかればそんなもの。」

 

 

 

 

 

生菓子は俺に食えと言っている気がする。

 

部活が始まるまであと30分はある。

 

食い終わるにはそれだけの時間で十分だろう。

 

しかし、マジメな鳳はどうだろうか。

 

毎日宍戸を誘ってから部活に来るからな。

 

 

 

 

「跡部、頼むから監督には黙っててくれ。」

 

 

 

「それは交換条件で考えてやっても良いが・・・。

 

お前はソレを拒否すると思うんだが・・・・。」

 

 

 

「何でもする、何でもするから頼むよ、跡部。」

 

 

 

「そうか・・・じゃあ・・・。」

 

 

 

生菓子が自分から俺に食われに来た。

 

いや、俺の口元まで飛んできたんだ。

 

それがその生菓子の気持ちでなくとも奴は飛んで落ちてきた。

 

 

 

 

 

俺に堕ちてきた・・・。

 

 

 

 

「俺には欲しい物がある。

 

お前が持っているものだ・・・。」

 

 

 

 

 

「なんだよ、俺の持ってる欲しい物って?

 

俺なんかより良い物使ってるだろ?ラケットもシューズも。」

 

 

 

 

 

「俺が欲しいのはそんなモノじゃない・・・。」

 

 

 

 

 

 

手を付けたら最後だ。

 

俺はお前から逃げられない。

 

 

 

 

 

「俺が欲しいのは俺が・・・欲しいのは・・・お前だ。」

 

 

 

 

生菓子は俺の目の前でただ呆然と俺の目を見つめていた。

 

自分から堕ちてきたのに気付かないんだな。

 

だからお前を動けない様にフォークで押さえつけるんだ。

 

苺を取られたショートケーキはどんな顔をするのだろうか?

 

 

 

 

「お前が欲しい、それだけだ。」

 

 

 

 

そのもの全てを手に入れたいのにお前がそんな顔をするから

 

今日は唇だけで済ませてやるが今度は全てを手に入れる。

 

 

 

 

 

「・・・これから全て手に入れる。」