「そろそろ、七夕やね。

 

岳人は何か願い事でもするんか?」

 

 

 

「いいや、しないね。」

 

 

 

 

七夕 〜アホですね、そうですね〜

 

 

 

 

岳人は忍足の言葉に気のない返事を返した。

 

そして窓の外に見える跡部と宍戸を見詰めた。

 

 

 

「宍戸に跡部か・・・。

 

2人は夏休みの間、どこか豪華なところにいくんやろうな。」

 

 

 

「夏休みなんて全国大会の真っ最中だぜ。

 

そんな暇ないって。

 

それにうちは無駄に宿題が多いんだから

 

今年も跡部は俺とか宍戸とか慈郎の面倒みる運命なんだよ。」

 

 

 

「少し可哀想やな、宍戸は。

 

学校一の金持ちの彼女なのにデートもろくに出来へんやろうな。」

 

 

 

 

忍足が窓際から離れて席に座ると岳人は廊下の方へと視線を移した。

 

七夕の笹竹が教室の隅に飾られている。

 

誰も居ない放課後の教室ではその姿が大きく見えた。

 

 

 

「俺、願い事書こうかな・・・。」

 

 

「どうしたん、突然。」

 

 

「だって叶いそうって思ったんだ。」

 

 

 

窓の外へと岳人は身を乗り出した。

 

 

 

「お〜い、宍戸。

 

これに何か書いておけ。」

 

 

 

窓から投げ出された折り紙はひらひらと跡部の頭の上に落ちた。

 

宍戸はそれを見て少しプッと笑った。

 

 

 

「ごめん、跡部。

 

でも願い事は叶うから怒らないように。」

 

 

 

宍戸は跡部の頭に振ってきた水色の折り紙に

 

ペンでさらさらと文字を書き始めた。

 

 

 

「宍戸も単純やな。

 

いきなり紙投げられて、それに書くなんてな。」

 

 

「跡部もそう思ってるんじゃない?」

 

 

「それで願い事は?」

 

 

 

宍戸が書き終わるのを見届けた岳人は嬉しそうに笑った。

 

 

 

“恋人の頭が悪くなりますように”

 

 

 

「なんやそれ?」

 

 

「だって侑士も跡部も頭いいからな。」

 

 

「まさか、宍戸もそんなこと書いたって言うんか?」

 

 

 

宍戸の札には“跡部の態度が変人らしくなりますように”と書いてあった。

 

その札が飾られてから跡部は宍戸の願いを叶えるために変人になりすました。

 

 

 

「宍戸ってとことんバカだな。」

 

 

「でも可愛い願い事やけどね。」

 

 

「それに気付かない跡部もそうとうバカだね。」

 

 

 

宍戸の願いは“跡部の態度が【恋人】らしくなりますように”だった。

 

 

 

「可愛らしいカップルやね。」

 

 

「相当のアホだけどね。」

 

 

「七夕が過ぎたら教えてやろうな。

 

あのままだと跡部が不憫や。」

 

 

 

跡部は今日も変な髪形で学校に来ていた。

 

みごとな9:1分け。

 

 

 

「でも面白いから七夕すぎてからやで。」

 

 

 

跡部は今日も宍戸のために頑張っている。

 

 

 

 

 

A HAPPY END?