アンドロイド 〜ANDROID〜
 
 
 
 
 
 

5月の日 MAY DAY

 

 

 

「リョーマ、もう退院したのか。

よかったな、どこにも後遺症がなくって」

 

リョーマの父親の越前南次郎がどたどたと玄関まで駆けてきた。

まるでその姿は自分よりも幼い子供に見える。

 

「そうだね、でも何で母さんも親父も見舞いに来なかったんだよ。

それに交通事故に遭った子供をあんな小さな病院に

入院させる親ってなんなんだよ」

 

「はぁ、何言ってんだよ、リョーマ。

あの病院って、あそこは大学付属病院だぞ。

お前にとっては大学病院も小さい病院なのか」

 

リョーマは目を丸くした。

自分が入院していた病院は開業病院くらいの土地しかなかったからだ。

 

「・・・で、どうして見舞いには来なかったんだ」

 

「それは医者にも言われてたしよ。

リョーマだって病院から電話してきただろ、心配するなって」

 

リョーマが入院していた日は2週間、

そのうちの3分の2を意識不明で過ごした。

即死状態だったリョーマを大学病院で治療したのちに、

あの小さな病院に運び込まれたこと考えられる。

 

「その電話があったのって何日頃だったの」

 

「確か、事故に遭ってから3日くらいだったかな。

最初は当日に病院に行ったんだけど、面会謝絶だったからな。

その後は病院から連絡があるまで家で待機するように言われてよ。

でもリョーマ、記憶障害は少し残ってるみたいだな」

 

「あの時は慌しかったからね。

俺もほとんど時間の感覚がなくって困ったんだ」

 

電話した記憶が無い、しかもその時は意識がなかったはずの

自分から連絡が来たという父親の話に合わせながらも

リョーマは自分の頭を整理していた。

 

「リョーマ、こんな所で立ち話なんて病み上がりには悪いぜ。

早く上がれよ、お前が楽しみにしてたテレビをDVDに撮ってあるんだ。

母さんが録画しとけってうるさくってよ」

 

「親父、俺を担当した医者の名前とかって分かるの。

俺、ほとんど覚えてないからお礼も言えてないんだ。

今日は病院にいなかったみたいだし」

 

「母さんが確か、大石とかって言ってたな」

 

キッチンを覗くと母さんが嬉しそうに笑った。

 

「お帰りなさい、リョーマ。

カルピンも貴方を待ってたのよ」

 

「今日はリョーマさんが帰ってきたお祝いに

ご馳走を用意してますから、楽しみにしていてくださいね」

 

従姉の菜々子さんも嬉しそうに笑った。

 

「テニス部の先輩からもこんなにお見舞いの品が届いてるの」

 

リョーマの部屋には多くの手紙やカラフルな箱が置かれていた。

見覚えのある部屋なのに自分の部屋のようには感じられない。

 

『俺、帰ってきたんだ。

あんなところから、やっと帰ってきた』

 

そんな風にリョーマが胸を撫で下ろすと

突然、あの病院にいた無数のコードで繋がれた女の子のことを思い出した。

 

「あの子、今何してるんだろう。

俺が入院してる時は側まで来て世話してくれてたけど。

それにあのコードで繋がれてないと生きれないとか

プロトタイプとか言われてたな」

 

リョーマは自分の手の平に目をやった。

暖かいのにこの身体が一度死んでしまったとは思えなかった。

そして彼女もまた自分と同じように死んでしまってから

あの様な姿にされたのだろうと思った。

 

「・・・残酷だね、死人を無理矢理生かすなんて」

 

リョーマは手を握り締めていた。