アンドロイド 〜ANDROID〜
生きている日 ALIVE DAY
「竜崎桜乃は入院していた大学病院を退院して 別の小さな病院に移ったらしいわ。 しかも、その病院が竜崎桜乃の死を隠してるらしいって もっぱらの噂なのよ。 何でも有名な医者の息子が運転していた車で撥ねられて 下手に親に伝えられないんだって」
「小坂田、そんな噂どこから聞きつけて来るんだよ?」
「そんなのアンタに教えるわけ、ないじゃない」
俺に何が出来るのかと日々、考えている。 いい加減に竜崎を病院から出して学校に通わせないと 小坂田のことだから、ほとんどの噂は本当のことだ。 竜崎を撥ねた男は有名な医者の息子だった。 それに俺を撥ねた男はあの病院の医師だった。
「小坂田、俺は竜崎に会ったことあるけど・・・」
「リョーマ様が、竜崎桜乃に・・・。 そうよね、だってリョーマ様は同じ病院に入院していらっしゃったし。 そしたらリョーマ様もあの小さな病院に入院していらっしゃったの?」
「あぁ、あの時はほとんど軽症だったから 小さな病院に移りたいっていった。 それに竜崎は少し体調を崩していて入院が長引いているだけ。 あの病院は何も隠してない、ただの病院だよ」
少しでも話題を逸らしたかったし、これ以上竜崎の噂が 広がってしまってもやっかいだった。 それにその噂が真実だと信じ込んでいる人間も少数だけど存在した。
「・・・リョーマ様、本当に竜崎桜乃に会ったんですか? 私、あの病院にリョーマ様のお見舞いに行った時に見たんです。 竜崎桜乃の顔に白い布が掛けられるのを。 それって死んだってことじゃないんですか? それに両親もほとんど彼女の話はしないらしいですし」
「竜崎の死なんてバカバカしいよ。 そんなこと信じてるのなんて子供だけなんじゃない?」
少し強い口調で言った。 小坂田は良い奴だけど、今はあの子と俺の秘密を バラされるわけにはいかない。 今日は5月29日、竜崎が入院してから約三ヶ月が経過していた。 いくらなんでも竜崎が退院してこないのは不自然だ。 俺は出来るだけ竜崎のことを小坂田たちに話した。
「リョーマくん、今日ね、博士が私のコード1本抜いてくれたの。 『生命維持装置を外すのにはまだ早いけれど、 小さくすることなら可能』だって。 私、生命維持装置を小さく出来たら学校にも行けるって」
俺は今日も病院を訪れていた。 背中に差し込まれたコードは黒く太いコード意外は 割りと細めにできている。
「このコード、俺にも付いていたのかな?」
「リョーマくんが運ばれてきた時は同じコードが着いてたよ。 でも私と違って黒いコードだけだった」
俺は事故に会ってから初めて目を開けた日を思い出していた。 あの日以来、俺の背中には無数の傷が残っている。 真っ黒に爛れた跡だ。
「そのコードもリョーマくんが目を覚ましてから 10日くらいで取り外されていた。 きっとリョーマくんが強いからだね。」
「竜崎の席、まだ教室に残ってるから、 なるべく早く、退院できるように訓練しよう」
「ありがとう、リョーマくん」
大きく息を吐くと俺は感じたことのない感覚に襲われた。 その感覚とは背中から生暖かい空気が漏れるような感触。 着ていた制服のシャツが静かに膨らんでいた。
「なんだよ、これ」
「熱を冷ますために作られた空気口とでも言っておこうか」
「博士、今日は患者さんが来るんじゃなかったんですか?」
竜崎の視線の先には博士と呼ばれる俺と竜崎を作った男が立っていた。 その男は手に携帯電話くらいの大きさの箱を持っていた。
「桜乃、これでお前も学校に行ける」
「本当ですか、博士」
「この箱がお前の心臓の役割をする。 しかし体力は生前以前の3分の2しかない。 越前くんの様なバケモノなみの体力はないんだ」
俺はバケモノと呼ばれたことにカチンときたが 今はただ竜崎の隣で黙っていた。
「学校に行けるんだ・・・」 竜崎の感動を壊したくなかったから。
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