アンドロイド 〜ANDROID〜

 

 

 

 

 

 

遠くの日 A Old Day

 

 

竜崎桜乃、彼女は有名な大学病院に勤める医師の息子に殺された。

事故とは言え、人を殺したことに間違いはなかった。

医師は自分なりに考え、その娘を生かすことにした。

人が踏み入れてはいけない領域に彼は踏み入ったのだ。

 

心肺停止した彼女の身体を別の病院に移した。

身体は完全に死亡していたが脳は完璧に再生できる範囲内だった。

「彼女を生かせば私の息子は罪には問われない、

息子は人殺しではない」と医師は呟きチェーンソーを手に取った。

使えなくなった右肩から左斜下のへその位置まで彼女の身体を切断した。

普段の手術ではこんな大胆な切断手術はしない、

部屋は見る見るうちに血の海になった。

この医師は名医として知られている。

手術ミスの報告はなく、信頼の置ける医師としての評価は高い。

元々几帳面な性格で潔癖なほどの完ぺき主義者である。

それ故に息子の不祥事が許せなかった、

そしてこの様な行為をしているのだろう。

 

竜崎桜乃の身体は無残にも2つに引き裂かれた。

 

それから医師はあの小さな病院の博士を呼び出した。

「お前の欲しがっていた死体が一体ある、

お前が言っていたように彼女を生き返えさせろ」と大きな声で怒鳴った。

医師は非現実的なことを嫌う性格だったが、

今は神にでも縋りたい気持ちだろう。

あろう事か、自分の息子が殺した娘を真二つに切断したのだから。

もしも、この博士が娘を生き返らせなければ自分は

遺体損壊罪に問われることになるからだ。

「お前にはその娘を完璧に治せるのか」と不安そうな声で医師は呟く。

博士と呼ばれる男はうすら笑いを浮かべながら言う。

「私の技術は完璧ですよ、

しかし彼女の様に死亡してから時間が過ってしまって

いますと、多少なりの障害が残ってしまうかもしれませんがね」

冷たい声とは裏腹な微笑みを見せる男に医師は項垂れる。

「貴方が切断してしまった体ですが、これは正解ですね。

ここから下は使えない。

時間が立ち過ぎていますから。」と娘の身体を持ち上げた。

「まずは心臓を動かしましょう。

こんな心臓では役に立ちませんから、人口の物で。

それから、私の病院に運んでください。

もちろん内密に」

 

医師は自家用車を地下の駐車場に止めていた。

深夜の今頃では夜勤の数人の看護婦と医師しか、この階にはいない。

エレベーターで一気に地下1階まで下りれば見つかる可能性は低かった。

 

「先生、貴方は私のことを嫌っているのでしょうね。

人の命を救うことが何よりも大切だと思っている貴方ですから」

医師はハンドルを握る力を強めた。

「無理にでも少女は生きたいと望んでいるのですか?

私は機械以外を愛せない人間ですから、貴方もご存知のはずです」

笑い声がくすくすと聞えてくる。

まるで医師を馬鹿にしたような笑い声だ。

「貴方も人間なんですね、人の心を持っている貴方。

ステキですよ、エゴを丸出しにしていてね」

 

博士と呼ばれた男は自分の病院に着くと少女の身体を抱えた。

「先生、彼女が生き返って貴方を攻めたとしても

私は責任は持てませんよ。

そして貴方が心痛めたとしてもね」と怪しげな声で医師に語りかけた。

その声はまるで呪いの言葉だった。